世界中で廃止されてきている「徴兵制度」。「徴兵制度」のメリットとデメリットは何か?
「徴兵制度」とは、国民に対して一定期間の兵役の義務を課す制度のことです。それに対する対義語としては、自分の意思で軍に志願する「志願制度」があります。
大抵は、若い男性が徴兵の主な対象となりますが、国によっては男性だけでなく女性にも徴兵を課している国もあります。
安全保障関連法案の話題では、「徴兵制が復活する」などの意見が出てきます。日本だけでなく世界中のあらゆる国が、過去には兵力確保のために「徴兵制」を採用していましたが、現在では「徴兵制」よりも「志願制」を採用している国がほとんどです。
今回のテーマは「徴兵制」に関する基本的な概要、軍事政策としての徴兵制にすることのメリットとデメリットについて解説します。
徴兵制は何のためにあるのか
明治維新が始まったばかりの日本では富国強兵を掲げ、徴兵制を実施しています。
その時の時代は、世界は欧米列強であり、軍事力こそがその国の力でもありました。(今でもそうともいえるかもしれませんが)
当時はどこの国もすぐにでも兵力を一定確保する必要がありました。兵役が終了しても、国が戦争などの有事になった際に、予備役として兵力を招集し、軍隊への参加が義務付けられました。
しかし、近年では時代と共に戦争の変化と兵器が発達していき、高性能な兵器を少ない兵士だけで運用が可能になりました。大人数の兵力を確保する必要がなくなる代わりに、それを効率良く運用するための少数の精鋭な兵士が求められるようになっていきました。
後に、ソ連の崩壊により東西冷戦が集結したことにより、総力戦の心配もなくなったことで、各国では徴兵制を廃止していきました。
徴兵制には健康検査などがある
一人の人間を徴兵をするには、まずは健康検査やらその人間の身辺調査などをして、それをパスしなければいけません。身体や健康に問題があったり、身辺や精神などに問題があれば、兵士になれません。これはどこの国でも同様です。
しかし、徴兵制を逃れるために、わざと「健康検査に不的確を狙う」、「制度上の穴を狙う」、「徴兵採用担当者にコネで外してもらう」などの「兵役忌避」が横行しました。
その方法は「犯罪者になる」、「兵役免除の地域に移り住む」、「健康検査に不的確になるように身体を調節」などです。これは徴兵制度を採用しているどこの国でも問題になっているそうです。
国が認めている徴兵を外れる方法もある
「良心的兵役拒否」というものです。
ドイツは2011年に徴兵制を廃止しましたが、それまでのドイツはボランティアなどの社会貢献活動などをすることで兵役を拒否することができました。
又、現在でも徴兵制を採用している韓国などもスポーツなどの功績を上げた人には、兵役を免除するというのもあります。
他にも、高校や大学などに軍事の科目などがあり、これを受講した学生には兵役を免除されるなどというのもあります(ロシア、タイなどがそうです)おまけに単位まで貰えるので、一石二鳥かもしれません。
徴兵制を採用している国は減少傾向にある
■徴兵制を実施している国,■3年以内の徴兵制廃止を予定している国,■志願制度の国,■3年の徴兵制を実施しているが、二割以下だけが招集される国,■軍隊を保有していない国
現在でも徴兵制度を採用している国は64ヶ国と多いものの、そのほとんどは上記の「良心的兵役拒否」というものです。また、主要なほとんどの先進国では徴兵制は廃止されてきています。NATO加盟国でも現在採用している国は5ヶ国(エストニア、トルコ、ギリシャ、デンマーク、ノルウェー)と減少しています。
減少傾向にある理由には、上記の兵器の発達により大人数を確保する必要がなくなっただけでなく、徴兵制度による経済や国策としてのデメリットがあるからです。
徴兵制度のメリットとデメリット
ここからが本記事の本題です。
徴兵制のメリット
徴兵制の良い点としては、兵士の数を一定数確保できることにあります。これにより、いざというときの有事の際には、「徴兵経験者を予備」として即座に動員できることにもあります。
これは、もし近くの国家との緊張状態が高く続いている時には、常に兵力の確保ができるため、大きなメリットにもなります。
徴兵制のデメリット
徴兵制は、当然自分の意思で兵士になっているわけではないため、「やる気のない」兵士ばかりが集まる事にもなります。これは、全体の兵士の質の低下や規律の乱れにもなります。軍隊に関係なく、一般の民間企業でもやる気のない人間がその会社に集まれば、会社は利益を上げることができないのと全く同じです。
ベトナム戦争でアメリカ軍が敗北した理由の一つとしては、「徴兵制を導入していたから」とも言われています。
他にも若者男性を一般の世界とは数年間隔離するため、若者の貴重な期間を阻害することにもなります。その間に年数に出来た大学でのやりたい分野の勉強や、入りたい企業があったりした場合、その学歴やキャリアを阻害し、民間への優秀な人材が流れにくく、結果的に国家を衰退させてしまうことにもなります。
記事の冒頭でも述べたように、兵器は発達して高度化しており、それを扱うための知識も必要になります。そのため、それを扱うための教育をしなければいけません。
また近年の軍隊では、兵士一人一人に求められるものが多様化しており、兵士の持つ装備のコストも上昇しています。そのため、兵士一人に対する教育のコストも向上しています。
しかし、徴兵制は数年で離れてしまうため、教育のための訓練期間が圧倒的に短いという面があります。そんな数年で離れてしまう兵士ばかりでは、軍の部隊にノウハウも残すことができないため、低品質な兵士ばかりが揃ってしまいます。
これは民間企業でも同じであり、新人ばかりの部署では会社利益が上げられません。先輩社員は新人社員を教育し、そこで知識や経験を得て、会社に利益をもたらすための仕事ができます。
国が軍隊を持つということは、当然費用がかかります。入隊してきた新米兵士の訓練やら、寝床や食事、衣服や銃などの装備など、徴兵制にも莫大な費用がかかります。
上記のデメリットで挙げたように、費用の割にはパフォーマンス(質)が悪い軍隊になってしまい、結果的に国の財政を圧迫することにもなります。
日本の自衛隊はどうなのか?徴兵制が復活するのだろうか?
集団的自衛権などの安全保障関連法案の話題になれば、「徴兵制がまた復活する」と言う意見もありますが、現時点では徴兵制はあり得ません。理由は以下の4つです。
そもそも憲法で禁止されている
何人もいかなる奴隷的拘束を受けない。
又、犯罪に困る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
憲法14条
徴兵制は「意に反する苦役」に当たるというのが政府の見解です。
しかし、安保法制が議論されてた時、当時の民主党の岡田代表は、集団的自衛権が憲法解釈の変更に合憲にできたのと同じように、「徴兵制も政府が解釈を変更することで合意にできる恐れがある」とも述べました。
そもそも自衛隊の倍率が高い
防衛省が公表している平成26年度の自衛隊の倍率です。画像から見て分かる通り、人気の職業であり、倍率が高いことがわかります。
そのため、そもそも徴兵制にしなければいけないほど不足しているわけではないことがわかります。
そもそも防衛費がまだ足りない
自衛隊の防衛費のほとんどは人件費と維持費です。人件費だけでも40%を占め、特に維持費がバカになりません。
自衛隊で使われているほとんど装備品類が、日本だけしか使用していないため、それだけ装備品の値段が高くなります。他にも、比較的に最新鋭の装備を持っているため、それにかかるメンテナンスなどで費用がかかります。徴兵制を導入して無駄に人員を増やせば、それだけで財政を更に圧迫します。
ハイテク兵器を扱う専門技術の教育が必要
:コンピューターを駆使したハイテク兵器を使用してし、レーダーで敵の動向を見張る様子
日本の自衛隊は、世界中の軍隊の中でも比較的に最新鋭の装備を保有しています。
最近では無人機とはじめとしたコンピューターによる技術を使用したハイテクな兵器が増えており、それらを扱うための専門的な知識や技術を習得しなければいけません。
ハイテク兵器を扱うための教育を行う部隊(教育隊)がありますが、現在でも毎年入ってくる隊員を教育をして手一杯なのが現状であり、更なる教育をするための部隊が必要になります。
:医療行為をするアメリカ陸軍の衛生兵
また自衛隊だけでなく、どこの軍隊も歩兵ばかりではありません。現代のハイテクの時代には、歩兵の需要は減ってきています。
どこの軍隊にも「会計をする人」、「建設や土木作業をする人」、「輸送をする人」、「医療を行う人(衛生兵)」、「通信をする人」、「武器を直す人」、「ご飯作る人」、「化学兵器を除去する人」など専門的な分野をする人達がいます。これらを「兵站(へいたん)」と呼んだりします。
徴兵制があると誤解している人の中に多い考えですが、銃を渡して短期訓練すれば、すぐに戦争に送り込めるわけではありません。それは現代の軍隊であればあるほど尚更です。
11/5 追記:
beginner-military.hatenablog.jp
徴兵制を肯定する人の中には、「若者の根性を鍛え直すのに、若者を自衛隊に入れたほうがいい」と言う人もいます。しかし、勘違いしてはいけないのは、自衛隊は国防という任務を負う国の重要な行政機関であって、教育所ではないことです。そして徴兵制自体も若者への教育や懲罰を与える制度でもなく、兵士を確保するための手段にすぎません。
今回は徴兵制のメリットとデメリットを挙げましたが、メリットは「兵士を一定確保できる」が、デメリットは「コストの割には質が悪く非効率」ということです。
参考資料