わかりやすい安全保障・軍事入門

ニュースなどで聞くけど難しいと感じる軍事や防衛、安全保障などについて入門者向けにわかりやすく解説していきます。たまに軍事のマニアックなネタや軍事に関する歴史なども解説。

なぜ「日米安全保障条約」ができたのか。日本に米軍基地がある理由

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出典:Japan/America Society of Kentucky - Dr. Shimada Japan Lecture and Panel Discussion

沖縄の普天間基地問題や、その他の米軍基地などの問題が話題になるように、日本には多くのアメリカ軍基地があります。日本はアメリカと「日米安全保障条約」を結んだことにより、日本は基地を提供してアメリカ軍が駐屯しています。

しかし、「日米安全保障条約」などを取り巻く環境もいろんな要素が絡み合い、様々な問題となっています。

 

そもそもなぜ他国の軍隊であるアメリカ軍が日本に駐屯しているのか?そして、そうなった経緯とは何か?それに基づいた「日米安全保障条約」とは何か?ということについても解説していきます。

日米安全保障条約とは?

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出典:RIAC :: Japan-US-China Triangle and Security in East Asia: a Triangle or an Axis?

日米安全保障条約」とは1951年のサンフランシスコ講和条約の調印と同時に、日本とアメリカ間で終結された条約で、内容は日本の安全を保障するための米軍の駐留などを定めたものです。

その9年後の1960年には、今までの日米安全保障条約を事実上に改定した「日米間の相互協力及び安全保障条約」というものを結んでいます。(旧安全保障条約はこの時に失効)

つまり簡単に言えば、日本の外国侵略に対する脅威の対処はアメリカが行うというものです。ここまでは学校の授業で習う誰でも知っている話であると思います。

 

しかし、ここで多くの人が抱く疑問としては、「なぜアメリカが日本を守ってくれるのか?」という疑問を抱くと思います。この条約が終結された6年前まではお互い戦争をしていました。そんな敵国でもあった日本を守ると条約で定めたのはなぜか?

それには日米安保が出来た経緯、そしてアメリカ側の狙い日本側の狙いも知らなければいけません。

日米安全保障条約」が出来た経緯

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出典:Which were the communist countries during the Cold War? | Reference.com

第二次世界大戦で日本は敗戦すると、連合国の占領下になり、日本軍が解体されます。

この時、世界はアメリカを中心とした資本主義・自由主義勢力の西側諸国、ソ連を中心とした社会主義共産主義勢力の東側諸国に分かれ、両陣営による東西冷戦が始まっていました。

世界中で共産主義圏が広まっていき、日本の近隣国である中国(中華人民共和国)も共産化していきます。

後の5年後の1950年には西側諸国(アメリカ,イギリスなど)と東側諸国(ソ連,中国)の代理戦争である「朝鮮戦争」が起こります。

アメリカとしては朝鮮戦争の前線基地としての日本に軍を置いて起きたかったのと、日本をソ連からの共産主義圏の影響を抑え、西側諸国に付かせておきたかったという狙いがありました。

日本とアメリカの狙いがマッチした政策

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出典:About Japan: A Teacher's Resource | Signing of US-Japan Security Treaty 1951 | Japan Society

朝鮮戦争」の最中にGHQは、最低限の日本の防衛のために「警察予備隊」を作ることを当時の首相の吉田茂に命令します。(後の自衛隊となる前身組織)

翌年の1951年にサンフランシスコ平和条約で日本は主権を取り戻すと、同時にアメリカ軍が引き続き日本に駐屯する内容を含んだ「日米安全保障条約」を結びます。

 

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出典:Cold War Conflicts Outside Europe

アメリカ側としては、共産主義圏の拡大を抑えるための防波堤、または前線基地としての狙い。

日本側としては、軽装備の少ない軍事費(警察予備隊)とアメリカ軍に国防を担ってもらう事で、日本の復興と経済発展に国力を充てられるという狙いがありました。

当時の首相であった吉田茂はこれを国家戦略として考え、日本は後に高度経済成長を遂げます。この考え方を吉田ドクトリンといいます。

 

日本はその後もアメリカ軍という存在の「抑止力」を得ることになります。

beginner-military.hatenablog.jp

日米安全保障条約の改定

1960年の日本が高度経済成長の真っ只中に、日米安全保障条約が改定されます。

日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」というものです。

新たな日米安全保障条約

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出典:日米同盟の歴史 « American View

今までの「日米安全保障条約」には不備があり、日本からは平等とはいえる内容ではありませんでした。

それは、日本がアメリカに基地を提供して駐屯を許すものの、アメリカ軍が日本を防衛するかどうかは、条約の内容では明確では無かったからです。

内容には「日本の安全に寄付する」とだけ規定されていて、仮に日本が攻撃を受けたとしても、日本を防衛するかどうかはアメリカ政府の判断がすることでハッキリしていませんでした。

更には日本に内乱などが起きた際に、アメリカ軍がその内乱に介入できるという規定もありました。もしアメリカ軍の介入を許せば、再びアメリカの占領統治下になってしまうという恐れもありました。

 

これらの問題を解消するため、日本はアメリカに対して安全保障条約の改定を打ち出し、アメリカ側も日本との今後の関係を考えた場合に平等なパートナーシップになるべきだと考えるようになります。

1960年に「日米間の相互協力及び安全保障条約」を結び、現在の日米同盟の元が生まれます。

 

改定の内容としては、「アメリカ軍の内乱介入の削除」。そして「日本が攻撃を受けた際に、日米共同で防衛をする」という「日米共同防衛の明文化」を行いました。

これは少し前まで話題になった集団的自衛権を前提とした内容です。(集団的自衛権が成立されるまで、50年以上もかかっています)

そして在日アメリカ軍が配備や装備の変更をする際、事前に日本と協議をする必要がある制度を設けました。

この条約は10年ごとに破棄するか更新するかを決めることができます。

安保闘争」という反対運動が起きる

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出展:安保闘争 - Wikipedia

しかし、この安保改正によって国会が数万人の包囲されるほどのデモを起こし、死者を出すほどの「安保闘争」を引き起こします。

「日米共同防衛」というのを聞いた国民が、「日本はアメリカの戦争に巻き込まれるのではないか」という不安を抱いた人が多くいたためです。

少し前にあった「集団自衛権の行使容認」と同じようなことが昔でも起きていました。

経済成長により基地負担と防衛力強化を要求される

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出典:Japan and the United States can take in shaping the strategic guidelines | News Time

安保改正から10年が立った1970年の最初の条約更新時に、アメリカは日本に防衛費と防衛分担の拡大を要求します。

日本の高度経済成長により、日本は十分な経済力を付けたことから、アメリカは自らで防衛に力を割り当てることを日本に要求します。

この頃は東西冷戦の真っ只中であり、1970年代から日本の防衛は大幅に拡大していき、防衛費の予算も増大していきます。

要求の内容は以下の通りです。

  • 在日アメリカ軍の駐留費用の肩代わり
  • 日本の防衛力の増強のための自衛隊の強化
  • 「日米ガイドライン」を締結

「日米ガイドライン」とは「日米防衛協力のための指針」と言われるもので、日本が外国に攻められるなどの有事が起きた際に、自衛隊とアメリカ軍での防衛の役割分担を取り決めた文書のことです。

自衛隊の任務内容や日本とアメリカ間の合同訓練の内容など、他にも在日アメリカ軍の駐留費用の肩代わりの内容なども含まれています。

この日米ガイドラインは、東西冷戦中の1978年に「ソ連」に対抗することに備えて作られました。後の1997年にこの日米ガイドラインは改定され、去年の2015年には2回目の改定をしています。

「東西冷戦」構造の崩壊後の日米安保の意味とは?

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1991年にソ連が崩壊すると、東西冷戦が終わりを迎えます。

元々は東西冷戦を前提としていたこの「日米安全保障条約」の意味がなくなるのかと言えば、それは違います。

ソ連崩壊後も依然として、日本周辺は地域紛争問題や多くの脅威を抱えているからです。

北朝鮮のミサイル発射実験、中国と台湾の紛争問題。更には中国の南シナ海の覇権をめぐる問題、日本も中国との東シナ海尖閣諸島などの離島の問題を抱えています。

冷戦後のガイドラインの改定

冷戦後の日本周辺の紛争問題に対処するために、1997年に今までのガイドラインを改定し、「新・ガイドライン」を作ります。

その内容には朝鮮半島の有事を念頭に置いた日本周辺での武力衝突が起きた際の自衛隊とアメリカ軍の役割分担などを定めています。

これにより、日米防衛協力の強化がさらに図られました。また、この「新・ガイドライン」に沿って、東アジアでの地域紛争などが発生した際に、日本がアメリカ軍の後方を支援することを明文化する法律を作りました。

その法律が「周辺事態法」であり、「新・ガイドライン」作られた2年後の1999年に制定されています。

2015年の再度ガイドライン改定

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出典:12 Signs That The U.S. And China Are Moving Toward War | EMerging Equity

2010年代になると中国の軍事力強化や尖閣諸島などの離島の脅威などの問題が徐々に目立つようになっていきました。

このことから、2015年に日米ガイドラインが再度の2回目の改定がされました。

改定の内容は主に以下の3つです。

  • 尖閣諸島などの離島防衛の協力をガイドラインに盛り込む
  • 武力攻撃には至らないが、それになる手前の「グレーゾーン事態」が起きた際の役割分担を追加
  • 日本とアメリカの協力範囲を「アジア太平洋地域およびこれを超えた地域」とし、地球規模に拡大する

2010年代に入り尖閣諸島などの離島の問題が目立ち始めたことから、離島も日米安全保障条約の範囲に含めることを確認し、これらを日米ガイドラインに含めました。 

 

また今までのガイドラインには武力攻撃の発生が予想されたりした場合の「グレーゾーン事態」が起きた際の役割分担が決められていませんでした。

もし日本側にも重要な影響が及ぶと判断された場合、「グレーゾーン事態」が起きた際に日本とアメリカの役割分担などを決めた内容をガイドラインに含めました。

 

そして、最後の「日本とアメリカの協力範囲を地球規模に拡大」というのは、今までのガイドラインでは自衛隊がアメリカ軍を支援または協力できる範囲は日本周辺に限定されていました。

これらのことから、東アジア圏以外の地域でも日米間の協力や支援などの内容を日米ガイドラインに含めました。

これは、南シナ海や中東でのアメリカ軍への支援や、サイバー攻撃や宇宙空間での日米防衛の協力を含んでいます。これらは集団的自衛権を前提としています。

また日本側としては石油などが通るシーレーンの安全確保のためでもあります。

米軍は本当に日本を守ってくれるのか?

よく日米安全保障条約で話題になるのは、「アメリカは本当に守ってくれるのか?」という意見があります。

議会の判断で変わるかもしれない日米同盟

日本が攻撃を受けた際のアメリカ軍の対処としての「日米安全保障条約」の第5条には以下のように書かれています。

第五条

各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する

 

前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。

この話題でよく議論対象となるのは、「自国の憲法上の規定及び手順にしたがって共通の危険に対処する行動を宣言する。」と書かれている部分のことです。

アメリカの場合、戦争を行うにしてもいろいろな手続きを踏まなければいけないからです。

 

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出典:Demographics of the United States Senate | Tuva

特にアメリカは連邦議会の権限が強く、アメリカ大統領独自の判断だけでなく、「戦争権限法」という法律が存在するからです。

この「戦争権限法」という法律は、大統領はアメリカ軍の総指揮官としての権限を持つものの、軍の投入には連邦議会と大統領が共同で判断しなければいけないというものです。

仮に戦争布告などをしてなくても大統領は軍を投入することはできます。しかし、このことを48時間以内に連邦議会に報告する義務があり、もし議会の承認が得られない場合は60日以内に軍を撤退しなければいけないこともこの法律では定められています。

特にアメリカは世論の国でもあり、議会を動かしているのは世論でもあります。

もしアメリカ国内が日本防衛を賛成しない世論であれば、アメリカ軍の日本への派遣を賛成しないということもあり得るかもしれません。

日本側の狙いとアメリカ側の狙い

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出典:U.S., Japan to update defense rules in 2014 | The Japan Times

本来は他国との同盟というものは、自国に利益があるから結ぶものです。

アメリカが日本と日米安全保障条約を結びのは、アメリカ側に利益があるから結んでいます。

アメリカにとっては中国の太平洋進出を抑える狙いや、アジアや太平洋地域のアメリカというプレゼンス(存在)を見せることにより、国際的地位を維持するという目的があるからです。

日本側としても、そのアメリカの目的を利用しており、北朝鮮のミサイル発射実験の脅威への対処であったり、日本の領海や領土であり東シナ海の中国の拡大を抑えたいという狙いがあります。

日本とアメリカ双方とも利害が一致しているからこそ、日米安全保障条約というものが存在します。

 

 

 

日米安全保障条約が出来た最初の目的は、東西冷戦でのソ連への対処のためでもありました。

そこから国際情勢が変わり、現在は中国の進出拡大を抑える目的へと変わっています。

最初はアメリカ軍が日本を守る内容であったものの、現在は日本とアメリカが双方で共同防衛をするという内容に変わっています。

アメリカの新大統領がトランプ大統領になった現在、日米間の安全保障の関係が今後は変わっていくかもしれません。だからこそ、国際情勢の変化に注目してくことが大事です。

参考資料

allabout.co.jp

www.huffingtonpost.jp

防衛省・自衛隊:日米防衛協力のための指針(2015.4.27)