イエメンでのアルカイダ討伐作戦。トランプ政権に今何が起こっているのか
出典:https://rampages.us/aqaptracker/wp-content/uploads/sites/7644/2015/07/Yemen_AOI.jpg
28日未明にイエメン中部のバイダ洲ヤクラ地区で、国際テロ組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」に対して、アメリカ海軍特殊部隊(Navy SEALs)が急襲作戦を行いました。
この作戦で、「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)の戦闘員41人と民間人16人、アメリカ軍兵士が1人が死亡し、3人が負傷しました。
トランプ大統領は、イスラム系テロ組織の掃討にも力を入れることを考えており、トランプ政権以降になってイエメンでの初めての軍事作戦でもあります。
今回のテーマは、この作戦での詳細的な内容や「アラビア作戦のアルカイダ」(AQAP)とは何か?という所まで解説し、トランプ大統領の考えるテロ対策についても考えていきます。
AQAPに対する急襲作戦の内容
作戦には、アメリカ海軍特殊部隊であるネイビー・シールズ(Navy SEALs)の対テロ専門部隊であるTeam 6(DEVGRU)が投入されました。
特殊部隊隊員を乗せた「V-22 オスプレイ」には、攻撃ヘリコプターである「アパッチ」数機、複数の無人機「リーパー」が護衛に付くと、夜間にAQAPの関係者と見られる3人の部族長らの自宅を襲撃しました。
死傷者の民間人16名の中には、女性8人と子供8人も含まれていると言われています。
地元当局者によれば、襲撃先は部族長らの家でだけでなく、AQAPの拠点である学校やモスク(イスラム礼拝所)、AQAPの戦闘員が利用していたとも思われる医療施設も襲撃されました。
不時着によりヘリコプターの破壊
後にアメリカメディアで明かされた内容では、作戦現場の近くにある「部隊集結地点」でV-22 オスプレイが不時着し、米軍側に2名の負傷者が出ています。
不時着の影響のせいか、「当該機体(オスプレイ)が機能しない」と判断されると、後にオスプレイの意図的な破壊を行っています。
アメリカ軍が特殊作戦で、ヘリコプターが機能停止になって破壊している例は何もこの作戦だけでなく、ビン・ラディン殺害の際もステルス・ブラックホーク(ヘリコプター)一機を意図的に破壊しています。
ちなみに不時着の原因には、「敵戦闘員からの攻撃ではないと考えられる」と報じられています。
オバマ前政権時代から考えられていた作戦
元々この作戦は、オバマ政権時代からも考えられていました。
アメリカ軍の統合特殊作戦司令部(JSOC:Joint Special Operations Command)は、数ヶ月に渡って当時のオバマ大統領に作戦計画を立案していたものの、様々なリスクが想定されたことを利用に、オバマ大統領は作戦の実行には非常に慎重でした。
後のトランプ政権ではテロとの戦いに力を入れることを考えており、トランプ新政権になってからは、すぐに作戦の許可が下りてしまいます。
そもそも「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」とは何か?
出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Al-Qaeda_in_the_Arabian_Peninsula
そもそもこの作戦で襲撃にあった「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」とは何か?という所から解説します。
AQAPとは、アルカイダのサウジアラビア支部と「イエメンのアルカイダ(AQY)」と合同で発足したスンニ派のテロ組織のことです。
アメリカ軍の攻撃やサウジアラビア政府の厳重なテロ対策により、サウジアラビアのアルカイダメンバー達はイエメンに活動拠点を移します。
そこで元々イエメンで活動してたテロ組織「イエメンのアルカイダ(AQY)」と合併して、合同で2009年1月に設立します。
AQAPの前身である「イエメンのアルカイダ(AQY)」は、以前からテロ事件を起こしており、有名な9.11同時多発テロをはじめとしたアルカイダの国際テロ事件は、多くがイエメン国籍を持つもの、イエメンで軍事訓練を受けた経験がある者が多くいました。
ちなみにAQAPは現在問題になっている「ISIL(イスラム国)」とも対立しています。理由としては、「ISIL(イスラム国)」が主張する領土の地域にAQAPがいるためです。
アメリカが最も危険視するテロリスト
今話題のISIL「イスラム国」が出るまでは、国際テロ情勢を指揮していた組織はAQAPでした。
AQAPはイエメン全域で、欧米人や欧米権益(欧米系企業など)、イエメン政府(軍や警察なども)、イスラム教シーア派の一分派であるフーシ派への襲撃や自爆テロなどを繰り返してきました。
それだけでなく、「デルタ航空機爆破テロ未遂事件(2009年12月)」,「イエメン発米国行貨物輸送機の貨物機爆破未遂テロ(2010年10月)といったアメリカを直接ターゲットとするテロ事案も増えていきました。
そして、アメリカにとって一番問題であったのは、テロが予想しにくいことでもありました。
その理由として、「アリゾナ洲・フォートフッド陸軍基地乱射事件(2009年11月)」、「ニューヨーク・タイムズスクエア爆破未遂テロ(2010年5月)」などのように、どちらのテロを起こした犯人もAQAPの指導者であったアンワル・アウラキの影響を受けて起こしたテロ事案であったからです。
これによりアメリカ政府は、AQAPを最も危険な国際テロ組織と認識し、2011年9月にはAQAP指導者のアンワル・アウラキやサミールカーンを無人攻撃機により殺害。その後、アメリカ軍はイエメンのハーディー政権の協力を得て、AQAPの掃討作戦を徐々に行っていきました。
これによりAQAPは多くの幹部を失い、AQAPは組織として大きなダメージを受けます。
イエメン国内での内戦によっての勢力拡大
出典:http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43493
2014年9月以降のイエメン国内では、イエメンのシーア派一分派であるフーシ派が首都サヌアを占拠してしまうと、イエメンの実権を握るハーディー大統領とフーシ派武装組織と対立し、イエメン国内は内戦が起きてしまいます。現在でもイエメン国内は以前と混乱状態が続いています。
隣国のサウジアラビアはハーディー大統領を支援し、現在でもフーシ派武装組織に対して空爆を行っています。
しかし、この混乱に乗じてAQAPは勢力拡大を図っていきました。
現在、AQAPはフーシ派とも元々の政府であったハーディー大統領側とも対立し、イエメン国内は三つ巴のような状況になっています。
トランプ大統領の考えるテロ対策の内容とは?
トランプ大統領はイスラム系過激派組織「イスラム国」(ISIL)や、AQAPなどのアルカイダ系の組織の掃討を外交の最優先課題と挙げ、マティス国防長官には、30日以内にイスラム国などの掃討作戦の計画案を提出するようにも命じました。
その方法にはイスラム国の資金源を断つような方法や、中東やアフリカなどのイスラム教圏の7ヶ国のアメリカへの入国も制限しました。更には国家安全保障会議(NSC)の改革を行うための大統領令にも署名を行っています。
現在でもIS掃討作戦は継続中であり、そのため関係強化としてのロシアとの関係復帰などを考えているのかもしれません。
イスラム系過激派組織の対策の難しさ
「アルカイダ」、「イスラム国(ISIL)」だけでなく、アフガニスタンには「タリバン」など世界中に多くのイスラム系過激派組織が存在します。
そして一番の問題は、例え同じ組織でもそれぞれが拠点がバラバラであったりすることです。これにより、仮にテロ組織の指導者を討ったとしても、また別な人物が指導者に代わり、テロ組織に共鳴した別なテロ組織がテロなどを起こすため、テロの予想がしにくいという問題があります。
これによりアメリカに入国した人間が、テロ組織の声明の共鳴により、国内でテロを起こすことを危惧して入国制限を行ったのかもしれません。
それぐらいに、アメリカはそれをやらざる負えない状況に来ているのかもしれません。
参考資料