わかりやすい安全保障・軍事入門

ニュースなどで聞くけど難しいと感じる軍事や防衛、安全保障などについて入門者向けにわかりやすく解説していきます。たまに軍事のマニアックなネタや軍事に関する歴史なども解説。

テロ対策はなぜ難しいのか?従来とは違う形の脅威とは

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アメリカのトランプ大統領のイスラム圏の7ヵ国を入国禁止令が最近話題となっています。入国禁止制限の理由としてトランプ氏は、ISISなどのイスラム圏の「テロへの脅威」を上げています。

テロとはテロリズムの略称した和製英語でもあります。2001年の9月11日に起きた「アメリカ同時多発テロ」を境に有名になりました。

 

そもそもテロリズムとは何か?又、テロリズムはなぜ対処が難しいのか?ということを、テロに関する歴史を少し交えながら解説していきます。

テロリズム(テロ)とは何か?

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テロリズムとはフランス語の[terrorisme]が語源で、フランス革命の恐怖政治(テロル)に由来しており、政治的な目的を達成するために不当な暴力・暗殺・破壊活動を行うことを言います。

テロは直接的な被害だけでなく、恐怖による民衆の社会不安を増長させ、テロリスト本来の目的を達成することにも繋がってしまいます。

 

9.11の「アメリカ同時多発テロ」だけでなく、日本でもテロ事件は過去に起きており、1995年に起きた「地下鉄サリン事件」などがそれにあたります。

20世紀を国家間同士の「戦争の時代」と呼ぶなら、21世紀は「テロの時代」とも呼ばれているぐらい、2000年以降はテロの事件数が右肩上がりで増加しています。

テロはなぜ対策が難しいのか?

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テロに直接対処するのは警察や軍隊でもあります。

しかし、従来は国家を相手にしていた軍という組織は、近年では非国家組織であるテロリストに対処することが求められています。

「新たな脅威」とも呼ばれているテロは対処があまりにも難しい事が問題となっていました。

その一つとしては、テロの撲滅がまず難しく、予期しない時にテロが起こることが難しいと言われています。テロリズムとは、テロリストが圧倒的に有利であり、国家側がテロに対して不利でもあります。

テロ組織の元を断つのが難しいテロリストの組織構造

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テロリズムで対処が難しい理由として、テロリストの組織構造があまりに複雑で、あるテロ組織をつぶしても、それに関わりのある新たなテロ組織が引き継いだり、生まれてしまう点です。

 

イスラム系過激派組織によく見られる組織構造として、9.11事件を起こした「アル・カイダ」を例に紹介します。

 

アル・カイダ」は日本人が良く知る組織ではない構造をしています。それは、どういう組織構造か。

アル・カイダ」のようなイスラム系過激派のテロ組織は「アメーバ型」の構造をしているからです。

通常は組織と聞くと、命令を下すリーダーであるトップが存在し、トップから下のそれぞれの役割のサブリーダーに値する人々に命令が下ると、そこから下全体に命令が下るというイメージを抱くと思います。

そうやって組織が動き維持されていく。こういうピラミッドのような組織構造を「ヒエラルキー」といいます。

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一般の会社や国の行政のほとんどはこういった組織構造で、日本人の多くは「組織 = ピラミッドのような構造(ヒエラルキー型)」をイメージすると思います。

しかし、イスラムの宗教的な考え方というものには、基本的にはピラミッドのようなヒエラルキー型の考え方はありません。

そのため「ヒエラルキー」とは違って、「アメーバ型」の組織は、トップを潰したとしても組織全体が崩壊するわけでないということです。

 

 

具体的に「アル・カイダ」のようなイスラム過激派が取っている「アメーバ型」とはどういう組織なのか。

それは「セル」(細胞という意味で、活動の最小単位)と呼ばれる少数のテログループが世界各地にいて、ネットワークのような組織体制を敷いていることです。

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この構造での厄介な点は、テロ組織の幹部達の命令だけでなく、幹部達の発表や声明などを聞いた各地の「セル」が共鳴をするようにテロ活動を起こしてしまう点です。

また、この「セル」と呼ばれるテログループの単位は、「アル・カイダ」のようなテロ組織本体と直接的な関係がないこともあります。

とある「セル」は他の「セル」とも関わりがなかったり、ある地域によっては、ある一つの「セル」と他の「セル」が密接に関わってお互い連携しているなど、組織構造があまりにも明確でないことです。

また、これらの「セル」同士を繋げる仲介役の「ハブ・セル」とも呼ばれるグループもあります。

他にも直接テロとは関係の無い人物や集団をアルバイトで雇い、テロ活動を行わせるというのもあり、テロ首謀者の特定があまりにも困難な活動形態をしています。

 

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このように直接に幹部やトップを叩いたとしても、他の「セル」が起こすテロ活動を止める抑制にはなりにくいという問題があり、別な「セル」が新たなテロ組織として立ち上がってしまうということもあるからです。

テロリストが主導権を持っている

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テロを実行する側は、攻撃の場所と実行するタイミングの主導権(イニシアティブ)を持っています。これはテロリストが国内に紛れて一般民衆の中に溶け込んでいるため、テロリストの発見が非常に難しいことからです。

またテロを実行する側は、一度のテロで直接的被害や社会不安を増長させることが可能なため、テロリスト側からしたら安価で済みます。

 それに対して、国側がそれに対応するための費用は膨大であり、テロ活動が起こるかもしれない予想されれば、一時的な封鎖や建物へ入る際の荷物チェックなどといったことにも時間やお金を割かなければなりません。

 

テロ活動はテロリストにとっては目的を達成するのは安価で済み、それと同時に国側に一時的な行政活動や経済活動などに支障をきたすこともあるからです。

イスラム過激派にテロが多いのはなぜか?

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イスラム教自体に問題があるわけではなく、イスラム過激派というのはイスラム教徒全体の中では、ごく一部に過ぎません。

イスラム教は元々暴力を否定するものであり、本来は平和を大切にする宗教です。

多くのイスラム教を真面目に信仰している人のほとんどは、アル・カイダやISIS、タリバンといったテロ組織とは一緒にされたいとは思っておらず、テロ組織を強く非難しています。

しかし、イスラム圏に住む人の多くは、キリスト教の文化を中心とする西洋諸国と対立や虐げられた歴史を持っています。
 

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元々、中東全体や北アフリカなどの一帯は、現在のトルコ共和国の元でもあるオスマン帝国の支配下でもあり、その一帯に住む人々は民族は違ってもイスラム教徒として共存していました。 
しかし、第一世界大戦後にイギリス、フランス、ロシアによるサイクス・ピコ協定によって、オスマン帝国が分割統治され、現在の中東問題の発端を作り出してしまいました。
後に中東諸国は、さまざまな欧米諸国の思惑に利用され、石油や天然ガスといった化石燃料類の利益を欧米諸国が握り、欧米と中東では様々な問題や経済格差を生んでいくとになりました。
そういった貧しさを脱しようとヨーロッパに移民したイスラム教徒達は、ヨーロッパ社会になかなか受け入れらず、現在の反欧米意識を生み出してしまい、イスラム過激派を生み出す要因となってしまいました。

自国育ちのテロリストを作る新たなテロリズム

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近年問題になっているのは「ホームグロウンテロリズム(Homegrown terrorism)」と呼ばれるものです。

「ホームグロウンテロリズム」とは名前の通り、「自国で成長したテロリズム」という意味です。

イスラム文化ではない欧州などの自国に住んでいながら、イスラム過激派の思想に共鳴してしまい、自国で行うテロ活動のことを言います。

こういったテロ活動を行う多くは特定の組織に属さない個人であるローンウルフと呼ばれるものです。

外国人が自国に入ってテロ活動を行うのではなく、自国の人間が自国でテロを行うことから、動向把握が困難であり、対処がしにくいという問題を持っています。

過激派思想を共鳴させる方法とは

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過激派思想を起こさせる有力な方法としては、インターネットを使った宣伝活動が多く用いられています。

また、その過激派思想に感化してしまう人のほとんどは、残念なことにイスラム圏からの移民2世や移民3世の若者がほとんどです。

その理由としては、移民先が都市郊外の貧しい地区であり、自国の社会に適応できないという所です。自国社会からは疎外され、その失意につけこむように、インターネットを通じたイスラム過激派のPR活動に感化してしまうわけです。

そに感化された若者が、自発的にテロ起こすようにISISやアル・カイダの声明により、一般市民が多く集まる公園や学校、ホテルなどを狙ったテロが急増しています。

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そしてこういったテロ活動がムスリム(イスラム教徒)に対する嫌厭を生み、ムスリムがますます社会から疎外され、ムスリムが自国に対する敵意を生み出してはテロ活動の発端となるといったようなサイクルを生んでしまっています。

 

 

 

現在話題となっているトランプ氏のイスラム圏の入国禁止の大統領令も、むしろ欧米諸国に対する嫌厭を増やすだけなのかもしれません。

またイスラム過激派のテロリストの多くは、指定したイスラム圏7ヵ国ではないサウジアラビアで生まれたのがほとんどです。

経済的な援助によってムスリムの人達に教育を受けさせ、欧米諸国との文化交流での理解を得るか、それともトランプ氏のような強硬策を取るか。

テロ対策は現在でも明確な対処が決まっていません。

 

参考資料

安全保障と国際紛争: 第3回授業レビュー(その1)

 

ironna.jp

www.newsweekjapan.jp