わかりやすい安全保障・軍事入門

ニュースなどで聞くけど難しいと感じる軍事や防衛、安全保障などについて入門者向けにわかりやすく解説していきます。たまに軍事のマニアックなネタや軍事に関する歴史なども解説。

「安全保障」とは何か

「安全保障」とは何か

「安全保障条約」「安全保障関連法案」など、「安全保障」とつく言葉をニュースなどでもよく聞くと思います。今回は当ブログのタイトルにも付けられている「安全保障」について、概要を少し説明したいと思います。

安全保障とは何なのでしょうか。それには「安全保障」という言葉の定義だけでなく、「安全保障」という概念が出来た経緯についても少し触れたいと思います。

安全保障とは

「安全保障」とは簡単に言えば、「国家・国民の安全を脅威から守ること」をいいます。しかし、「安全保障」という言葉自体の定義が時代と共に変化しており、万人が合意できるような定義がありません。

「安全保障」と聞いて、「国を安全のために軍隊で守ること」と思い浮かべる人も多いかもしれませんが、何もこれだけではなく、今では軍事的な意味だけではなくなってきています。

そもそも「脅威」とは一体何を指すのか。これの意味も今と昔とでは変化しています。

安全保障とは酸素のようなもの

「安全保障は酸素のようなものである。失ってみたときに、はじめてその意味がわかる」

ジョセフ・ナイ

ハーバード大学のジョセイ・ナイ教授が1995年に残した有名な言葉です。当時はアメリカ国防省の国防次官補という要職で、東アジア安全保障政策を担当していました。

言葉の通り、「安全」とは、失って初めてわかるものです。人は酸素を吸わなくては生きていけませんが、当たり前のように地球上に存在する酸素に対して、ありがたく思う人はなかなかいません。酸素が失いつつある危機に直面してこそ、ありがたみを知り実感できるものです。

これは日常に存在する安全も同じことであり、風邪などの病気になった人が、日々の健康について気を使いはじめるように、安全でなくなった時にその重要性に気づきます。

 

安全保障の多様な定義

上記で述べたように「脅威」や「安全」の概念も時間と共に変化してきました。脅威とは何も「他国からの軍事的な脅威」だけでなく、今までの歴史を振り返っても、国家や人間にとっての「脅威」とは「自然災害」や「伝染病」も含まれるからです。

現在の「安全保障」には、「自然災害」「伝染病」も「脅威」として含まれています。ここで安全保障の種類を少し紹介したいと思います。いくつか種類がありますが、長くなるので、今回は3つだけ紹介します。

伝統的安全保障

「伝統的安全保障]とは、他国などの外部からの脅威を、軍事的手段によって守ることを言います。多くの人が「安全保障」と聞いて、一番思い浮かびやすい基本的な概念でもす。軍事力を用いて、国家や国民の安全や独立を守り維持することは、現在でも重要な役割です。

人間の安全保障

「人間の安全保障」とは、「紛争」「災害」「貧困」といった人間の生命、生活や尊厳に対する脅威から守り、個人の能力を向上させて恐怖と欠乏の脅威から守るというものです。

その方法とは、「食料」や「水」、「医療」や「教育」を充実させていくことなどが挙げられます。上記の「伝統的安全保障」のような他国からの軍事的脅威だけでなく、人一人に尊厳ある暮らしを保証できることが「人間の安全保障」です。

「人間の安全保障」は、ここから更に7種類に分かれますが、それについてはまだ別な記事で紹介します。

総合安全保障

安全保障は何も軍事的な側面だけによって図られるものではなく、非軍事的な側面も捉えて、総合的に安全保障政策を考えるという意味です。それは、外交努力や経済協力だったり、国内の不安要因や自然災害の対処なども含まれます。

集団安全保障

「集団安全保障」とは、国際連合のような集団内で軍事力の行使を禁止し、それを違反した国に対しては構成国が集団的制裁をすることで戦争を抑止し、相互間の安全を保証しようというものです。これについては以下で詳しく説明いたします。

安全保障という概念が生まれた経緯

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「安全保障」という概念は、第一次世界大戦後に広まりました。

それまでに歴史的にも戦火が絶えなかったヨーロッパで戦争を抑止していたのは、どの国もお互いに軍事力を持って牽制しあったり、同等の力を持つ複数の国が同盟関係を結んだり離れたりを繰り返すことで、同盟間の勢力がお互い均衡を維持することで戦争が起きたり拡大することを抑止していました。これを「勢力均衡」と呼びます。「勢力均衡」の詳しい事については別記事で説明したいと思います。

beginner-military.hatenablog.jp

第一世界大戦が起きたことにより、ヨーロッパの「勢力均衡」が破綻してしまいます。

そこで、自律した国家単体がそれぞれに同盟を結んだりして牽制しあうのではなく、友好的な国や敵対的な関係になりそうな国も同じ集団の耐制内に取り込みます。そして、その集団内で戦争をすることを禁止し、それを違反した国に対しては集団的制裁をすることで戦争を抑制して、相互間で安全を保障しようという考えが生まれました。これが「集団安全保障」であり、後の国際連盟国際連合の発足へと繋がっていきます。

何を「危機と感じる」かは、それぞれ違う

「安全保障の多様な定義」にも載せたように、国やその立場に置かれた状況により、安全保障のの考え方は変わっていきます。

日本なら、北朝鮮の核開発、中国の海洋進出などの東シナ海問題、といった近隣諸国の動向。しかし、アメリカであればISISなどの国際テロリズムといった問題。セルビアクロアチアなどは民族間の関係であったり、ソマリアスーダンといったアフリカの貧困国であれば、日々の生活の維持こそが安全保障になります。

世界中で共通しているのは、現在のISISやイスラム系難民の問題などもこれに含まれます。

 

今回は「安全保障」の概要だけを軽く触れました。「国家・国民の安全を脅威から守ること」は、何も軍事的なことだけではなく、多様な脅威から守ることを指します。

安全保障の種類は他にもあり、それぞれについての記事も今後は上げていきます。

 

参考資料

(ODA)分野をめぐる国際潮流 | 外務省

Securitygirl.net What is Security