わかりやすい安全保障・軍事入門

ニュースなどで聞くけど難しいと感じる軍事や防衛、安全保障などについて入門者向けにわかりやすく解説していきます。たまに軍事のマニアックなネタや軍事に関する歴史なども解説。

日英、戦闘機ミサイルを共同開発へ

日英、戦闘機ミサイルを共同開発へ

イギリスとの戦闘機次世代ミサイル技術の共同研究を今年の2017年で完了させる方針を決めました。

日本とイギリスの技術を組み合わせることにより、世界最高水準のミサイルを開発できるかもしれないとの報告書もあり、これから共同開発に移行するかどうかを決定する予定です。

これが実現されれば、F-2戦闘機以来のアメリカ以外の国で、初めて兵器の共同開発が始まります。

共同研究の経緯

共同研究の経緯

共同研究を行っているのは「JNAAM (統合新型空対空ミサイル)と呼ばれるものです。イギリス、ドイツ、フランスなどの欧州6カ国は「ミーティア」という射程200kmの長距離の空対空ミサイルを開発しました。

共同研究の内容は、「ミーティア」に日本製のシーカー(ミサイルが目標を探知する装置)を搭載することで、どの程度の性能になるかをシュミレーションすることです。

ミーティア」の特徴と弱点

欧州各国が共同で開発した「ミーティア」は射程200kmという世界最大の射程を誇る空対空ミサイルです。「ダクテッドエンジン」というものを使用しており、ミサイルに空気を取り込む吸入口を設け、固体燃料を燃料させて推進するというものです。マッハ4の速度で飛翔し、徐々に速度を落とし目標に到達します。

しかし、ミーティアには弱点があり、飛翔中に「終末誘導」と呼ばれる目標に接近した段階で、目標に対しての誘導能力が低いというものです。つまりは、ミサイルの命中率が低いということでした。

「終末誘導」とは何か

戦闘機の空対空ミサイルは発射されると、最初は発射した戦闘機のレーダーの誘導にされながら、目標に向かって飛翔していきます。これを「中間誘導」と呼びます。

ミサイルが飛翔していき、目標まである程度接近すると、ミサイル自身に搭載されている「シーカー」と呼ばれる装置が目標を捉えます。「シーカー」が目標を捉えると、戦闘機からの誘導を外れ、ミサイル自身で自ら誘導を行い、目標に向かっていきます。これが「終末誘導」と呼ばれるものです。

「中間誘導」が戦闘機のレーダーに目標の所まで連れてってもらう、「終末誘導」が自ら目標に向かって行くと覚えれば大丈夫です。

 

話を戻しますと、「ミーティア」にはタレス社製のシーカーが搭載されており、アメリカのAIM-120の命中率にも満たない弱点を抱えていました。

防衛装備移転三原則に変わった日本

日本は武器輸出三原則に代わる、防衛装備移転三原則に変わると、事実上に武器輸出が緩和されました。「ミーティア」の性能向上を検討中だったイギリス防省は、すぐに日本側に接触し、「シーカー」の技術給与の可能性についての打診をしました。

それを受け、2014年4月に日本政府は国家安全保障会議(NSC)を開き、「ミーティア」のイギリスと共同で改良研究を行うことに承認しました。

日本のAESAレーダーをベースに共同開発が開始

日本のAESAレーダーをベースに共同開発が開始

日本の中距離空対空ミサイルである「AAM-4」(99式空対空誘導弾)には、三菱電機製のAESAレーダー(フェイズドアレイレーダー)を搭載しており、アメリカのAIM-120の命中率に匹敵します。しかし、日本の「AAM-4」は直径が「ミーティア」より約3cmも大きく、「AAM-4」のAESAレーダーはそのままでは、「ミーティア」には直接搭載できません。

そのため、まずは小型化をしなければいけません。小型化をすれば、素子数が減って性能が落ちるため、従来ではレーダーの素子にはガリウム砒素(GaAs)が使われていましたが、窒素ガリウム(GaN)を使うことにより、従来よりも性能が向上しました。

 

これにより、世界最大の射程を持ちながら、高い命中精度を持つ世界最高峰のミサイルが開発可能になります。

 

コストダウンによる日本側にもあるメリット

日本はF-35戦闘機を導入する予定であるものの、日本の「AAM-4」は大きすぎるため、F-35には搭載できないかもしれない問題を抱えていました。もしイギリスとのミサイル共同開発になれば、F-35にも搭載可能ため、全世界にも輸出が可能になります。量産効果によって、大幅なコストダウンを図ることができます。

防衛費に限りがある日本側にとって、これは大きなメリットになります。

東シナ海で揺れる中国軍との問題

共同開発が実現され、F-35に搭載されれば、早い段階で長距離から高い命中精度を持つミサイルを発射することができます。敵との距離も縮めなくてすむため、発見もされにくく、敵からの攻撃も回避もしやすくなります。

 

2016年6月に尖閣諸島周辺で、中国軍機がスクランブル発進した自衛隊機に「攻撃動作」を仕掛ける事件が発生したりなど、近年では東シナ海での中国軍との緊張状態が一層強くなってきています。

数で上回る中国空軍に対して航空自衛隊が優位に立つことができ、中国に対して高い抑止力を発揮できるかもしれません。

 

参考資料

tokyoexpress.info

www.sankei.com