わかりやすい安全保障・軍事入門

ニュースなどで聞くけど難しいと感じる軍事や防衛、安全保障などについて入門者向けにわかりやすく解説していきます。たまに軍事のマニアックなネタや軍事に関する歴史なども解説。

10分で理解する「Xバンド 防衛通信衛星」

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防衛省が独自で運用するXバンド・防衛通信衛星「きらめき2号」が、昨日の24日に鹿児島県種子島宇宙センターから打ち上げられました。防衛省は、2020年度末までにさらに2機を打ち上げる予定で、合計3基態勢を目指しています。

 

実は防衛省は今までも「Xバンド・防衛通信衛星」を使用していましたが、従来の防衛通信衛生とは違います。

今回は、従来の防衛通信衛星との違いや、この通信衛星を打ち上げたことにより、日本の国防にとってどのような効果があるのかについて解説します。 

「防衛通信衛星」とは?

「防衛通信衛星」とは、防衛省が管理・運用する「通信衛星」のことをいいます。(いわゆる軍事通信衛星と変わりません。)

自衛隊内で情報を共有をする際の通信に使われたりします。「通信衛星」の特徴は、遮断物の影響を受けにくい点で通信が可能なことです。通常、通信で使う電波というのは、森や建物に遮断されて影響を受けやすいものです。宇宙空間にある人工衛星であれば、遮断物がない状態で通信を行うことができます。

 

現代の軍隊にとって、通信というのは非常にかかせない大事なものです。敵を発見(探知)した際、それが即座に味方に伝われば、それまでに指揮や攻撃などの行動を短縮することができ、優位に作戦を行うことができるからです。

過去には通信が繋がらなかったせいか、部隊が全滅した例がいくつかあります。 

Xバンドとは?

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出典:http://www.mccsat.co.jp/backbone/backbone03.html

Xバンドの名前が付くのでXバンドについても軽く解説します。

Xバンドとは、マイクロ波の周波数の帯域の一つのことです。8GHz〜12GHzの周波数帯の短い波長(25-37mm)の電波のことを指し、雨や霧といった気象などの影響を受けにくいのが特徴です。そのため確実性の高い通信が可能であり軍事衛星や気象衛星、気象用の降雨レーダーや軍事用の捜索レーダーと射撃管制用レーダー、地球観測衛星などに使われます。

従来は民間の「商用衛星」を利用していた

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出典:株式会社エム・シー・シー|ソリューション

防衛省は、今まで通信衛星を利用する際は、スカパーJSATが保有する3機の商用通信衛星を利用していました。

当時の通信システムでは容量も小さく、音声やファックス程度のやりとしかできませんでした。そのため、陸海空の自衛隊部隊間の情報共有も困難でもありました。

 

自衛隊が利用する「通信衛星」は、[スーパーバード B2]、[スーパーバード D]、[スーパーバード C2]の3機であり、[スーパーバード B2]と[スーパーバード D]の2機は17年前と古く、2015年で設計寿命を迎えました。

スーパーバードの一覧は以下を参照

SUPERBIRD - Wikipedia

 

そこで防衛省は2011年度に、2機の後継となる通信衛星を計画し、製造から運用終了までの長期間の一括で民間企業に発注まで行うPFI方式によって事業が行われ、NECが製造を受注しました。

「防衛通信衛星」が運用されることの利点

今までの民間の一部を利用していたのと違い、防衛省が独自に保有・運用することができます。これにより、有事でも防衛省が主体となって衛星を運用できます。

通信の速度・容量も飛躍的に伸びたため、リアルタイムで映像などの大容量のデーター伝送が可能となりました。これにより海外に展開した部隊の活動する状況もリアルタイムで正確に把握することができます。範囲は太平洋からインド洋と広い範囲をカバーすることが可能であり、海外で活動する部隊との情報共有も円滑に進められます。

 

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出典:http://www.mod.go.jp/j/procurement/pfi/siryou/xband.pdf

また従来では、陸・海・空の3自衛隊はそれぞれ通信衛星を利用していため、通信を統合しての統制が行えていませんでした。そのため統合幕僚監部(陸・海・空をまとめる参謀)にj情報が伝わり、陸・海・空のそれぞれの部隊に通知するという方法をとっていました。

今回の「防衛通信衛星」により、それぞれ3自衛隊で通信方式が違うものの、変換して伝送が行えるようになり、統合しての運用ができるようになりました。

陸・海・空のそれぞれの部隊の情報が迅速に全体に回るため、自衛隊全ての部隊が他の全ての部隊のセンサーとなります。

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出典:http://www.mod.go.jp/j/procurement/pfi/siryou/xband.pdf

弾道ミサイルに対する防衛の強化にもなり、どこかの部隊が探知したレーダーの情報が、対処する部隊に即座に情報を届けることが可能です。

また通信の秘匿性も高められており、通信妨害や通信傍受に対して対処能力も高められています。

Xバンド 防衛通信衛星のまとめ

  • 一元的に通信が統合されたため、陸・海・空の自衛隊で統合的な連携が可能になる
  • 高速で大容量の通信が可能になり、十分な通信帯域が確保されている
  • 秘匿性も高められたため、通信妨害や傍受に対して対処がしやすい

 

1/26 捕捉

防衛省は2019年度までに、無人偵察機の「RQ-4グローバルホーク」を配備することを予定しています。しかし、「グローバルホーク」が使用する周波数帯はKuバンドであり、Xバンドではありません。そのため、今回の「防衛衛星通信」は「グローバルホーク」のためではないと思います。

 

 

防衛通信衛星「きらめき1号」は、ギアナ宇宙センターの輸送中に損傷したため、打ち上げは今年の3月〜9月の間に延期されました。

3号機に関しは、防衛省の発表によれば2020年のうちに打ち上げる予定だそうです。

今回は「防衛通信衛星」の概要を解説しました。軍事に関わる衛星についての記事も今後は上げていきます。

 

参考資料

平成23年 防衛省 次期Xバンド衛星通信整備事業に関する基本的な考え方http://www.mod.go.jp/j/procurement/pfi/siryou/xband.pdf

 

<解説>Xバンド衛星通信機能の向上について

headlines.yahoo.co.jp