わかりやすい安全保障・軍事入門

ニュースなどで聞くけど難しいと感じる軍事や防衛、安全保障などについて入門者向けにわかりやすく解説していきます。たまに軍事のマニアックなネタや軍事に関する歴史なども解説。

フランスがようやく気づいた「中国の太平洋進出」の危機とは?

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出典:http://www.greenpeace.org/

あまり知られていませんが、フランスは世界の各地に領土を持っています。周辺を海に囲まれた島国いくつかを領土として持っており、地続きであるヨーロッパの国でもあるのにも関わらず、フランスの排他的経済水域は世界で2位と広大です。

その領土の内の3つがアジアにあり、全て南太平洋に位置しています。

 

中国は周辺国と領有権の問題を多く抱えていますが、その内の日本との問題である「東シナ海問題」、東南アジア諸国との問題である「南シナ海問題」の問題を抱えています。

これらは極東であるアジア地域の問題とされてきましたが、ヨーロッパの国であるフランスにも関わる問題にもなっていきました。

近年のフランスは中国に対しての警戒を強めており、「南シナ海」問題にまで関心を抱くようになりました。

どうして、この問題はフランスにも発展してしまったのか?今回のテーマはフランスが抱える中国との問題をテーマに解説していきます。

フランスにとってアジアの重要戦略地域

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出典:http://besanee.jp/

フランスがアジアに持つ領土は、「ニューカレドニア島」、「ウォリス・フツナ諸島」、「ポリネシア島」の3つです。

全て南太平洋に位置するこれらの土地は、フランスにとっては非常に重要な戦略的な地域でもあります。「ニューカレドニア島」と「ポリネシア島」には、現在でもフランス軍が駐屯しています。

ニューカレドニア島」には、陸・海・空軍や国家憲兵隊で編成される(ニューカレドニアに駐屯フランス軍)FANCが駐屯していて、兵力は約2950人。フリゲート艦や戦車揚陸艦哨戒艇や巡視船、固定翼機、輸送機、ヘリコプターまでも配備しているほどです。

ポリネシア島」にもFANCと同様に(ポリネシア駐屯フランス軍)FAPFが約2400名が駐屯しています。

 

なぜこれほどの国軍の部隊をアジア地域においているのでしょうか?それには以下のような戦略があります。

独自の通信傍受を行う「フレンシュロン」

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出典:

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%AD%E3%83%B3

アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、カナダは、「エシュロン」と呼ばれる軍事目的の通信傍受を行うシステムを持っています。エドワード・スノーデン氏の告発により、有名になった世界中のあらゆる通信を傍受するとシステムのことです。

フランスは「エシュロン」に劣るものの独自に「フレンシュロン」と呼ばれる通信傍受を行う監視網のシステムを持っています。

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出典:http://time-space.kddi.com/

インサルマット(国際移動通信衛星ネットワーク)やインサルテット(商業衛星通信システム)などの衛星通信を傍受するために、「ニューカレドニア島」には、その通信傍受を行うための施設があるからです。

フランスは国策に兵器取引の成約を掲げており、産業諜報活動としてはこの南太平洋地域は非常に重要な拠点となります。

かつて核実験を行っていた地域

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1960年代の東西冷戦下、アメリカ、イギリスが核実験を終えると、フランスも核実験を行おうとします。「ポリネシア島」にある「ムルロア環礁」、「ファンガタウファ環礁」の二つを核実験場とし、それらを管理する「太平洋実験センター」(CEP)を設置します。

200回にも及ぶ核実験をしたフランスは、当然に周辺国や環境保護団から激しく反発にあいます。その反発を抑えるために(ポリネシア駐屯フランス軍)FAPFはCEPを防衛します。

他にもこの地域における独立運動、経済・雇用への不満などにより暴動が起きると、暴動の治安のためにFANCやPAPFが必要でした。

後にフランスは包括的核実験禁止条約(CTBT)採択を受託し、1996年に核実験を終えます。

南太平洋地域の治安維持と自然災害の対処

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南太平洋にある島嶼国の国々や、他の海外領土は頻繁に大きな自然災害を受けます。しかし、経済事情もあり、自然災害への対処が強くありません。

南太平洋に位置するオーストラリア、ニュージーランドといった国々だけでは広域で島々が点在する南太平洋全体を対処できません。

そのためFANCやFAPFといったフランスの駐屯軍は、オーストラリア・ニュージランド、他の島嶼国の国々と一緒に災害対処、密漁監視、災害救助などを共同で行うようになります。

また島嶼国家は貧弱な軍・警察力しかないため、オーストラリア、ニュージランド、FANCやFAPFの駐屯フランス軍が、南太平洋地域の治安維持活動をします。

これによりフランスの駐屯部隊(FANC、FAPF)無しには、この地域の非軍事・警察活動は成り立たなくなります。この地域の演習など参加し、徐々に交流も増えていきました。

「太平洋進出」の野望を抱く中国の脅威を感じるフランス

近年では中国がオブザーバとしての参加や、共同演習への参加が徐々に増えていきました。それは以下の通りです。

  • 環太平洋合同演習リムパック(1998年)
  • 西太平洋潜水艦救難訓練(2000年)
  • コブラゴールド軍事演習(2002年)

徐々に入ってくる中国資本

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それだけでなく、「ニューカレドニア島」と「ポリネシア島」の間に位置する「フィジー共和国」に、中国はインフラ整備や建築などの援助を最近始めています。中国側の狙いはフィジー共和国の豊富な漁業資業を狙っているのでは考えられています。

 

他にも2014年には、人民解放海軍は「病院船」を周辺のトンガ、パプア・ニューギニアなどの島嶼国家に寄港させると、現地の人々に「無料診察」を行っています。

安全保障関係者はアメリカ軍やオーストラリア軍の電波・通信情報などの収集任務を行っているのではないか?と分析しました。

問題はフランス領である「ポリネシア島」にも寄港し、「無料診察」を行うほどです。

 

フィジー共和国」や「トンガ」、「パプア・ニューギニア」だけでなく、フランス領の「ポリネシア島」も徐々に中国からのインフラ整備や建築などの援助をしてきており、中国資本が徐々に入ってきています。

また、資本だけでなく「ニューカレドニア島」周辺にはレアルメタル資源が眠っており、「ニューカレドニア島」の住民達は伝統的にフランスからの独立機運を徐々に高めています。2019年には完全独立の是非を問う住民投票が行われる予定です。

もしフランスから独立し、ニューカレドアに中国の資本が流れればどうなるでしょうか?観光だけでなく、レアルメタルなどの海底資源も中国が手に入れてしまうかもしれません。

ようやく危機を感じたフランス

東シナ海南シナ海でも中国の密漁船の問題が起きているように、フランスは南太平洋地域でも徐々にそれが行われていることを知ります。東シナ海南シナ海同様に、漁船にいる漁民は、ただの漁民ではなく、「水上武装民兵」が密漁をしているということもフランスは徐々に把握していきました。

フィジー共和国」の港には7割が「中国漁船」とされており、アメリカ軍、オーストラリア軍の電波・通信の傍受をしているのではないかと考えられています。

 

現在のアメリカ、オーストラリアの海上兵力・海上警察力だけでは、南太平洋地域の密漁への対処は万全とはいえません。そのためフランスのFANC、FAPFは必要不可欠であり、東シナ海」「南シナ海」問題の関心を徐々に強めていきます。

これにより2014年春には日仏外相戦略対話では、「日本と同じ太平洋の海洋国家」とまで表現し、地域の安定化を取りくむことを日本と表明しています。

近年ではフランス海軍が九州西方沖に遠征すると、アメリカ軍、自衛隊と共同で、水陸両用作戦に取り組んでいます。

死の商人」を過去にやっていたフランス

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出典:http://blog-imgs-76.fc2.com/

それまでのフランスは対立関係のある敵・味方に両方に武器を提供し、いわゆる「死の商人」を行っていました。中国と台湾にも武器を売り、現在フランス自らが危機を感じている中国にも武器の輸出を行っていた実績があります。

2016年6月には、中国海軍艦が尖閣諸島の接続水域に入った事件がありました。その軍艦には、フランス製の技術が多用されており、ステルス構造やレーダー、機関部などの非常に多くのフランス製が中国人民解放軍では使われています。

それだけでなく、フランスは過去にフォークランド紛争での際にも、交戦国であるアルゼンチンにもイギリスにも武器提供を行っていました。

 

 

近年、南シナ海の問題も更に取りだたされるようになり、中国人民解放軍との緊張が周辺国といっそうに強くなっていきました。

中国の海洋進出に自国の利権が脅かされると感じたフランスは、無関係だと思っていた南シナ海東シナ海問題にも関心を抱くようになり、日本との協力関係も深めようとしています。

しかし、過去には日本と対立していた中国にも武器を輸出しているという実績もあり、あくまでも利害の一致による協力関係とも言えます。

 

参考資料:

www.sankei.com