「原子力潜水艦」の良さとは何か。「通常動力型潜水艦」との違い
米軍基地の話題で、よく「原子力潜水艦」という言葉を聞くと思います。
「原子力潜水艦」とは名前の通り、「原子力」を機関として動いている潜水艦のことです。
今回は「原子力潜水艦」ついて、通常の潜水艦との違いや良さについて解説していきます。
原子力潜水艦の特徴
出典:
「原子力潜水艦」とは、上でも上げた通り、「原子炉」を搭載した潜水艦のことを指します。
原子炉で発生する熱で水蒸気を発生させ、その水蒸気によるエネルギーで潜水艦のスクリューを回します。ここで原子力潜水艦のスクリューを回す方法には、以下の二種類があります。
- 原子炉の熱で発生させた水蒸気で、蒸気タービンを回して、スクリューを回転させる。(水蒸気で直接スクリューを回すこと)
- 水蒸気でタービンを回して一旦発電させる。その発電させた電力をモーターに供給してスクリューを回転させる。
通常の潜水艦は、ディーゼル・エレクトリック方式というのが主流であり、ディーゼルエンジンで電気を発電してバッテリーに電気蓄え、それをモーターで回して推進します。他にも
原子力潜水艦の特徴をまとめると以下になります。
原子力による高い出力を得られる
原子力による高い出力を得られるため、高速航走が可能になります。また原子力のため、燃料消費をそれほど気にする必要がないため、最大出力での高速航行を長時間行えます。
長期間の継続的な潜行活動ができる
原子炉の動作には酸素を必要としないため、長期間の潜行が可能であり、通常の潜水艦と違って、活動範囲の制約がありません。
また、原子炉の核燃料の補充が数年か十数年の一度で済むため、通常の潜水艦のように頻繁な燃料補強をしなくて済みます。
海水を電気分解により酸素を作り出せる
出典:
http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/chemical_wondertown/labo/page02.html
空気の入らない水中の密閉された空間に人がいれば、当然に潜水艦内の酸素が減っていきます。原子力潜水艦は、原子炉の有り余るエネルギーで発電した電気を使い、周りの海水を電気分解することにより、酸素を作り出すことができます。
当然、呼吸により潜水艦内の二酸化炭素も出るので、化学薬品で吸収しています。
最強というわけではない原子力潜水艦のデメリット
原子力潜水艦にも当然デメリットがあります。
よく言われるのは、通常の潜水艦よりも「静粛性(せいしゅくせい)」が低いことです。つまり、通常の潜水艦よりも騒音が漏れやすく、敵に見つかりやすいということです。
理由としては、原子力潜水艦には原子炉をつんでいるため、動いている間は、原子炉を冷却するための冷却水循環ポンプを止めることができません。これが騒音の原因になります。
潜水艦にとって、音をたてないということは最重要なことであり、敵に見つかれば潜水艦は圧倒的に不利になります。
他にも核燃料を運用するためのコストがどうしても高くなり、建造コストや維持コストが高くなります。そのため、保有できる国が限られています。
原子爆弾よりも研究が早かった原子力潜水艦
「原子力潜水艦」は「原子爆弾」の9年後に登場しますが、実は「原子爆弾」よりも「原子力潜水艦」の方が研究が先に始まっていました。
当時、ウラン核分裂反応の軍事利用に関する研究が、アメリカ陸軍と海軍のどちらもされていました。アメリカ海軍は、NRL(海軍研究試験所)に所属するロス・ガンという人を中心に、原子力潜水艦の研究開発。それに対してアメリカ陸軍は原子力爆弾(マンハッタン計画)の研究開発をしようとしていました。
途中、大統領の意向や研究の事故などもあり、「一撃で都市一つを壊滅できる兵器」であるマンハッタン計画の方に徐々に予算や規模などが優先されていきました。
このロス・ガンという方は、かなり不遇の扱いをされていたらしく、また陸軍とも対立していました。陸軍からの研究の共有などもなく、原子力潜水艦の研究開発に当てられる予算と規模は少なかったそうです。
後に、アメリカ海軍のハイマン・G・リッコーヴァー大佐が、原子力潜水艦の開発を上層部に訴えたものの、最初は相手にされず、後にチェスター・ミニッツ提督に直訴までして、ようやく合衆国海軍原子力部が設立され、開発が進んだそうです。
この辺りのエピソードは、以下のブログで詳しく載せている方がいます。
通常動力型潜水艦は、「音が静かな代わりに長期での作戦行動できない」、それに対して原子力潜水艦は、「長期間の作戦行動はできるが、騒音の問題を抱えている」と覚えておけば良いと思います。
どちらの潜水艦も一長一短であり、どちらを採用するかは、その国の軍事戦略の構想によって違います。
参考資料