わかりやすい安全保障・軍事入門

ニュースなどで聞くけど難しいと感じる軍事や防衛、安全保障などについて入門者向けにわかりやすく解説していきます。たまに軍事のマニアックなネタや軍事に関する歴史なども解説。

国連を「国際連合」とは呼べない。国連とは元々何だったか

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 上記は「連合国は自由のために戦う」と書かれているポスター

国連」とよく呼ばれている「国際連合」。安全保障を主とするこの国際組織は、「国際平和・安全の維持」、「諸外国間の友好関係の発展」、「経済や社会などの国際強力の実現」(国連憲章の冒頭から一部を抜粋)のためにあるとされています。

世界中から加盟国が集まり、「中立で公正公平な組織」、「調和のとれた国際平和を目指す」かのようなイメージを持つ方が多く、日本ではそういう組織だとされていますが、必ずしもそうではないとも言えます。(公正公平とは何か。という所まで話が進んでしまいそうですが、ここでは省きます)

今回は「国連というものは何か」というような概要説明ではなく、「国連」というものに対する日本人の捉え方とは違う面を持つ本来の「国連」について少し紹介したいと思います。

国連」の訳し方がそもそも違う

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国連は「国際連合」の略称です。しかし、その「国際連合」を英語にすると「United Nations」です。国際(International)とつくはずの組織のはずが、「International」という言葉が一切見当たりません。しかし、日本語では「国際」という文字が入っています。

「United Nations」は、直訳すれば「連合国」です。

あの歴史の授業で習う、日本・ドイツ・イタリア「枢軸国」と敵対していたあの「連合国」(軍)のことです。しかし、戦後を扱う歴史の授業では「連合国」ではなく、「国際連合」となっています。

連合国 軍」とは戦時中のアメリカ、イギリス、ソ連(ロシア)、中華民国中華人民共和国)、フランスを中心とした同盟国軍のことです。現在、この5ヶ国に共通することは何か?当時の「戦勝国」のことであり、あの「常任時理事国」というものです。(フランスは厳密には戦勝国ではありませんが、詳しい説明はここで割愛) 

戦後、日本が国際復帰を果たす際に、「国連」(いわゆる国連)に加盟しました。そして当時の外務省の役人は、「United Nations」を「国際連合」と訳しました。なぜ国際と訳したのかには不明ですが、当時の日本では受け入れられないと判断したのかもしれません。

 

元々は日本は「敵国」、今でもある意味「敵国」

国連」には、「国連憲章」という加盟国に課せられる条約があり、その中に「敵国条項」というものがあります。正式に「敵国条項」という項目そのものがあるわけではありませんが、よく言われているのが53条、107条、77条のことです。以下は、国連憲章の53条と107条の全文です。

第8章 地域的取極(とりきめ) 第53条

第一項

安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の地域的取極または地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によってとられてはならない。もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。

第二項

本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される。

第17章 安全保障の過渡的規定 第107条

この憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない。

全部読むと大変なので、一部解説をしていきます。

53条を簡単に言えば、「第二次世界大戦中に連合国の敵国だった国には、国連憲章に反したり、侵略行為を再現する行動を起こした場合は、国連安全保障理事会の許可は必要が無くても、軍事的制裁を課すことができる」という意味です。

国連憲章にはそもそも武力行使などが禁止されていますが、しかし一部例外があります。それを記したのが第107条であり、内容を簡単に言えば「再侵略の防止である限り、連合国自由な武力行使第二次世界大戦の敵国に対して可能」という意味です。

上2つの条文にあたる「第二次世界大戦中の連合国の敵国」とはどこを指すのでしょうか。

これは紛れなく、日本、ドイツ、イタリアのことを言います。(他にもブルガリアハンガリールーマニアフィンランドも指すと言われている)現在でも日本は、当時の第二次世界大戦の「敗戦国」であると同時に、「敵国」でもあります。

多大な国際貢献をしていても、いつでも敵国にできる国

日本は「国連」の予算に、2015年度の通常予算で356億円(全体の10.83%)もの多額の分担をしており、2014年7月〜2015年6月の国連平和維持活動(PKO)には1112億円(こちらも全体の10.83%)も出しています。「国連」の予算には通常予算とPKO予算がありますが、どちらの額も日本は国連加盟国の中では2位です。(1位はアメリカ)

他の「常任時理事国」の中国、イギリス、フランス、ロシアよりも上回ります。

それだけでなく、世界中の貧困国や発展途上国にも支援をしてきて、数十カ国にODA(政府開発援助)を実施してきています。

これだけの支援をしながらも日本は「常任時理事国」ではありません。

国連とは元々、戦勝国である連合国を中心として作られた組織であり、敗戦国である日本はそれを中心とした組織に加盟をしました。ある意味、日本は「敵国」というレッテルを貼られながら、連合国に加盟をしました。それは今現在でも同じです。

「拒否権」という強大な権力を持つ「常任時理事国」がある国連(United Nations)という組織は、本当に「国際平和協調」の組織なのでしょうか?本当に「国際平和協調」の国際組織なら、「拒否権」という強大な権力が果たして本当にあるのでしょうか?

 

国連」は、多くの日本人がイメージしているような「国際社会の助け合いの場」のようなものとは言い切れず、実態は「連合国(United Nations)」です。

それでも、現状の世界の秩序を維持しているのは「国連」の存在でもあります。

世界中の基本的人権、人間の尊厳、貧困国へのインフラ整備、教育、医療支援といったことを保障してくれる国際組織は「国連」(United Nations)しかいないのが現状です。

参考資料

toyokeizai.net

日本の戦後は、国連(連合国)がある限り終わることはありません。第一部 | 日本のために