「ポピュリズム(大衆迎合主義)」とは何か?ローマ法王のいう「ポピュリズムがヒトラーを生む」の意味とは
20日にドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に就任すると、後日にローマ法王の発言が話題になっています。
AFPBBの報道によれば、トランプ氏の就任日の後日の21日に、ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王(ローマ法王)は、「ポピュリズム(大衆主義)はヒトラーを生み出しかねない」と警告をしました。
ローマ法王はポピュリズムの例としてナチス・ドイツを挙げ、以下のようにも発言しました。
「ドイツは指導者を求めていた。ドイツのアイデンティティ−取り戻せる指導者を。そこに私ならそれができる』と言って、アドルフ・ヒトラーが現れた」
「ヒトラーは指導者の座を盗んだのではない。彼はドイツ国民によって選ばれ、そしてドイツ国民を全滅させた」
今回はポピュリズムをテーマに、簡単な概要を解説し、ローマ法王のいう「ポピュリズムがヒトラーを生む」の意味についても少し触れたいと思います。
ポピュリズムとは何か
ポピュリズムとは「一般大衆の利益、権利、願望、不安や恐れなどを利用して、既存の政治やエリート主義の体制を批判する政治思想」のことをいいます。(一部、wikipediaから引用)日本語では「大衆主義」と訳されます。
少し長いので簡単にまとめれば、「政治活動家が大衆の欲望や不満意見を一番に重視して、政権を得る思想」のことです。通常の民主主義政治と変わらないように見えますが、その違いは何でしょうか?以下に簡単にまとめます。
- 国民が現在の政権に不満を抱く
- 国民の願望や不満を利用して、現在の政権を批判して政治活動をする者が現れる
- 国民がその人物を支持
- その人物が政権を得ること
ポピュリズムのメリットとデメリット
ポピュリズムのメリットは、国を動かす立場であるエリートの腐敗や特権を改めさせることです。
デメリットとしては、「衆愚政治」になるかもしれないことです。衆愚政治とは、簡単に言えば「愚民による民衆の政治」のことです。これは大衆が自分の不満や欲求ばかりを主張したことにより、合理的ではない政策が実施されたりすることです。
ポピュリズムとは、大衆の不満から生まれます。その大衆の不満の解消をしてくると思って選ばれた政治家が、大衆の意見ばかりに呑まれて、合理性に欠ける政策、本当に解決しなければいけない政治的課題を無視してしまうかもしれません。
かつてポピュリズムによって生まれた独裁者
大衆の不満が大きくなればなるほど、既存の政党に対する不信により、単純明快な主張を掲げる「強いリーダー」を求めるようになります。あの有名な独裁者のナチスのアドルフ・ヒトラーを産んだのは、これが原因です。
第一世界大戦後のドイツの民衆の不満
第一次世界大戦によりドイツが敗北とすると、ヴェルサイユ条約により、海外の植民地の放棄、領土の割譲、軍備の制限といった制裁を受け、何より一番は連合国から多額の賠償金を支払いを課さられました。その額は1320億マルクと、とてもじゃないけど返せない額でした。(今で言うと日本で約200兆円だそうです)
ちなみに現在でも支払いは続いており、2010年でアメリカに対して支払いが終了し、2020年まで他の国に対して支払いが続けられます。
後にドイツでは「ハイパーインフレ」が発生してしまい、パン一個が1兆マルク、100兆マルク紙幣も発行されほどでした。有名な話では、喫茶店でコーヒーを一杯飲むのにトランク一杯分の紙幣が必要になり、紙切れ同然になった紙幣は子供達の遊び道具にもなっていました。
後の世界恐慌により、ドイツは経済破綻をし、大量の1000万を超える失業者を生みます。追い込まれていった大勢のドイツ国民は不満を抱き、自分達の不満を叶えてくれるような強いリーダーを求めるようになります。
巧みな演説により民衆から支持を得ていく
1930年の総選挙で、ナチ党(国家社会主義ドイツ労働者党)の党首であるヒトラーは、「失業者問題の解消」と「喪失した民族の誇りの回復」と単純明快な政権公約を掲げます。
ヴェルサイユ条約の反対、アーリア人こそ優れた民族であり偉大なドイツの復活など、巧みな演説で人々から多くの支持を得ます。
ヒトラーの最大の武器は、民衆を納得させる演説にありました。教養のない民衆に難しいことを言ってもわかるわけがないため、民衆にわかりやすい演説をすることに心がけました。
ジェスチャーを用いて、何度も政策のフレーズを口にします。ヒトラーは教養の低い大衆に対しては、演説は効果があるとわかっており、以下のような有名な名言があります。
「私は間違っているが、世間はもっと間違っている」
後の選挙で、ヒトラー率いるナチ党は30%以上の票を獲得し、政権の奪取に成功します。後の第二次世界大戦、ユダヤ人迫害へと繋がっていきます。
トランプだけじゃない世界中で起こった「ポピュリズム」
トランプ大統領の誕生だけでなく、イギリスのEU脱退、イタリア国民投票での上院の権限を縮小、フィリピンのドゥテルテ大統領の登場など、昨年の2016年を席巻していたのは「ポピュリズム」でした。
イギリスのEU脱退の原因は、イギリスはEU圏内での移動の自由により、ポーランドなどの東欧諸国の移民、イスラム系難民の急増により、移民制限の求める声が強まってました。
トランプ大統領の米国第一主義に基づいた閉鎖的・保護主義的な政策など、グローバル化によって広まった格差なのか、世界が大きく変わろうとしています。
民主主義は悪なのか?
世界中で起こるこの現象は、民主主義の限界とも言われ、新たな民主主義的な考えの時代に移らなければいけないのかもしれません。
元々フランス革命などから広まった民主主義は、民衆の貴族などのエリートに対する反逆でもありました。しかし、先のヒトラーの例のようなに、国民が選んだ政党が、後の惨事を招くこともあります。このようにポピュリズムとは明暗の二面性を持っています。
本ブログは安全保障を主なテーマとしていますが、安全保障に関わる戦争も政治とは密接に関わっています。民主主義であれば、主権は国民にあります。冷静な判断をするためにも、国際情勢や国内政治にも関心を持ち、「愚民」にならないようにしなければいけません。
参考資料